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青葉山新キャンパス 
新キャンパス構想の経緯
History

片平・雨宮地区等の移転に関わる新キャンパス整備にあたっての基本的考え方

(1998(平成10)年3月17日評議会決定)

はじめに
 本学におけるキャンパスの統合の必要性、理想的なキャンパスの理念及び新キャンパスにおける基本的な部局配置については、評議会決定を経て、学報「東北大学新キャンパス構想」(平成8年6月1日)及び「新キャンパス部局配置について」(平成8年8月1日)で周知してきたところである。これらの理念を踏まえ、東北大学新キャンパス構想に基づく片平・雨宮地区等の移転整備計画の問題点・課題を整理し、交通、環境、エネルギー等の各種計画及び基盤施設を検討・整備するにあたっての「指針」ともなる基本的なコンセプトが必要である。
 本稿は、片平・雨宮地区等の青葉山県有地への移転整備計画具体化のためのガイドラインとなるべき基本的な考え方をまとめたものである。

I.新キャンパス整備の理由
 我が国は今後とも潤いに満ち、活力に富んだ社会の形成を目指すとともに、国際社会の安定と平和に一層貢献しなければならない。ことに21世紀においては人口、エネルギー、資源、食糧、環境等の地球規模の諸課題の解決に我が国の果たすべき役割は大きい。こうした我が国の社会のさらなる向上と世界的に山積する諸課題の解決のために、大学は学問、高度な知識・情報の維持、研究の継続、発展はもとより、それらの社会への還元及び人材の育成等を通じ積極的に寄与してゆかなければならない。

 しかし、過去の歴史的経緯から形成され、細分化されてきた学問及び教育研究体系がそのまま現在及び未来の社会的諸課題の解決に十分対応出来るとは云い難い。大学は今後、現在の教育研究体制を再検討するとともに、学術研究の一層の発展や多様な社会的要請に応えるため基礎科学と応用科学、そして人文社会科学と自然科学が有機的に連携し、学際的な領域を発展させることがこれまでにも増して重要である。このように大学は多様化する社会に対応するためこれまでのような研究者や専門家の養成だけではなく、広く人文社会科学と自然科学を理解し、人間と社会に対する深い理解力を持ち、総合的な構想力と判断力を身に付けた高度な専門家の育成に努めなければならない。また、我が国並びに地域の活力を支える経済活動の発展には独創的先端的新技術の創出・開発が必要であり、大学はその基盤として今後とも重要な存在である。
 本学は、明治40年に、日本で3番目の帝国大学として発足し、「研究第一主義」、「門戸開放」を建学の理念として標榜し、爾来数多くの有為な人材を輩出するとともに、独創性に富む世界的な研究成果を世に送り出してきた。21世紀においても、こうした教育研究の実績を基礎に、人文社会科学と自然科学の融合を図り、世界的水準の学術研究及び教育の拠点大学として、その基盤整備を行い、潤いに満ち活力に富んだ地域社会及び国際社会の形成に貢献し、社会の諸課題の解決に取り組むべく体制を整える必要がある。これは、我が国の未来に対する拠点大学の責務であり、また、我が国が国際的に評価されるために必要不可欠な要件でもある。

 しかし、本学の現在のキャンパスは、その100年近い歴史にあって、学部、研究科、研究所、教育研究施設等が市内5地区に分散配置されており、各分野の教育研究の有機的連携・発展に大きな支障となっている。また、教養部廃止による学部一貫教育の実施により、全学教育と専門教育の同時実施という教育課程が実現したが、その一方で講義のため分散したキャンパス間を短時間内に移動しなければならない状況にある。さらに近年、大学院への国内外からの期待が増大しており、本学では大学院の重点化を進めているが、研究科や研究所に在籍する多数の大学院学生にとって受講と研究のための部局間の移動は大きな負担となっている。学生の課外活動における施設利用についてもキャンパス分散による同様な不便がある。また、研究所群のある片平地区では学部がないために食堂等の厚生施設の建設が難しいという状況にある。

 さらに施設についてはかなり老朽化した建物も多く、また各部局においては設置基準面積を満たすだけの建物が整備されておらず、狭隘化は深刻な問題となっている。そのうえ、近年新設された独立研究科、独立専攻・講座及び教育研究施設等では旧来の建物に仮住まいし、未だに独自の建物を有していない。このように本学では教育研究にゆとりがなく、教職員・学生・大学院学生等が余裕をもって勉学・研究に専念できる状態にない。

 以上のように本学における教育研究環境は、総合大学としての教育研究機能を、十分に発揮できる体制にはほど遠い状態にあり、また先進諸外国の大学と比べて著しく劣っている。
 総合大学としての独自の教育研究体制を、学問分野の進展に合わせて今後とも発展的に整備し、今後の社会の諸要請及び諸課題の解決に十分に貢献するために、本学は学部、研究科、研究所、教育研究施設等を現川内青葉山一帯に統合整備し、教育研究の総合化と高度化を図ることを構想した。その一貫として農学部、片平地区に所在する研究所(遺生研を含む)及び教育研究施設等全ての機能を青葉山地区のキャンパスに隣接する県有地に移転し、拡充整備することを構想した。なお,病院等のある医歯学系の星陵地区に関しては、今後の検討に委ねることとした。

II.青葉山県有地における新キャンパス移転・整備にあたっての基本的な考え方は次のとおりとする
1.キャンパスの構成、建物の配置等
〇青葉山県有地における部局の具体的配置については、平成8年7月29日開催の評議会で決定された「新キャンパス部局配置について」(学報:平成8年8月1日)を基本とする。
〇新キャンパスの敷地は、有効活用を可能とするため、支障のないかぎり一体的総合的に使用・管理する方向で検討する。
〇学部,研究科、研究所,教育研究施設等は、機能的・総合的に教育研究が実施できるように、有機的に関連した配置とし、新しい機能の創出に努める。また、将来の各部局の成長及び部局再編についても配慮する。
〇学生用の福利厚生施設及び文化・スポーツ施設等は利便性、機能性に十分配慮の上配置する。
〇共通的機能を有する施設は可能な限り集約し、重複配置を最小限に抑えることにより、一層の有効利用を図る。建物の内外観は、周囲の風景、自然に調和したものとする。また、シンボル的な建造物を構想する。
〇新キャンパスの建物等は地形・地勢を生かした配置とし、可能な限り地下の利用及び自然との共生を図る。

2.開かれたキャンパスの構築
〇本学はこれまで、社会に開かれたキャンパスを目指してきた。新キャンパス整備にあたってもこの精神を堅持し、広く社会の要望や意見を取り入れていくことを基本精神とする。
〇新キャンパスでは、社会に開かれたキャンパスとして、一般市民はもとより産学官との多様な関係の発展のための施設を考慮する。
〇これまで各部局において実施してきた各種の開放事業を基盤として、新キャンパスを生涯教育の場として市民に開放し、地域社会の課題の発見やその解決への取り組みに努める。また、地域産業発展のための協力体制の整備を図る。
〇新キャンパスは、広く社会に開かれた新しい学問の中心という意味での「大学」として位置付ける。そのため、自然林、植樹林、人工池、散策路、遊歩道、ショッピングモール等を配置し、職員、学生、市民がともに交流し、時には憩うことができる場として整備を図る。
〇地域社会との接点としての本学通信網・情報のオープン化は、本学の社会に開かれたキャンパスとしての重要な要素であり、情報関連施設として、電子化図書館、電子化博物館等の設置について検討する。また、情報通信の高速化は、本学の教育研究にとって必須の緊急整備事項であり、本学の学内LANであるスーパーTAINSの、より一層の活用・充実を図る。

3.キャンパスの緑の環境と資源の有効活用
〇青葉山一帯は、日本のハイデルベルクとまで賞賛される杜の都仙台の重要な緑地帯として存在しており、新キャンパスは周囲の自然との調和に十分配慮して整備を進める。
〇新キャンパスの整備にあたっては、青葉山の豊かな自然と緑を保全するとともに、新たな緑の創出・育成とその管理運営体制を考慮するなど自然環境との調和について十分配慮しなければならない。また、青葉山環境保全懇談会の提言の具体化に努める。
〇現状の緑地の保全及び生態系の維持を重視し、環境に配慮したキャンパスを形成するために、可能な限り、水や各種エネルギーの有効・効率的な運用に努める。供給については、リサイクル等を考慮するとともに、環境への負荷を最小にするシステムを導入する。
〇水利用については、雨水・井水を有効に活用し、中水利用循環システム等を積極的に導入する。
〇新キャンパスでは、可能な限り省エネルギーに配慮した構造及び設備を導入する。

4.厚生環境等の整備
〇新キャンパスにおける学部、研究科、研究所、教育研究施設等が、教育研究の機能を十分に発揮できるように、食堂、診療所等の厚生施設を適所に整備する。
〇国内及び外国から数多くの研究員、研究者等が訪問している現状に鑑み宿泊施設を含めた国際水準の生活環境を提供できるよう考慮する。
〇学部学生の個人利用のスペースの確保も含め、十分に余裕のある教育環境の整備に努める。また、潤いのある学生生活を実現するため、課外活動施設等にも十分配慮する。大学院学生には、先進諸国並みの余裕のあるオフィススペースの確保等研究環境の整備を考慮する。
〇本学に在籍する留学生が滞在期間中安心して勉学・研究に専念できるような環境の整備を図る。
〇職員、学生、外国人研究員、共同研究者等との情報交換を行うための十分なスペースの確保、市民等との交流施設、ファカルティクラブ、オープンスペース等を整備する。また、心身の疲れを癒すリフレッシュ施設等の整備についても検討する。
〇幅広く豊かな知識を具えた人材を育成するために、人文社会科学及び自然科学の枠を越えた情報交換を可能にする施設の整備を図る。

5.キャンパスへのアクセスと学内交通網の整備
〇本学の川内・青葉山地区の2万人にものぼる学生教職員等の通勤・通学手段の確保は、本移転整備にとって必要不可欠な事項の一つである。さらに新キャンパスと現在の青葉山・川内地区の交通アクセスについても抜本的検討及び運輸交通手段の整備が必要とされる。また、キャンパスと周辺市街地を結ぶ道路網の整備及び移転後の本学への通勤・通学等の主たる手段としての新交通システムの整備について関係諸機関に強く要請することが必要である。
〇学内道路は、学内諸施設間及び学外道路・新交通システムとの連絡・接続に十分配慮して整備するとともに、駐車場については建物配置に必然的に伴う非緑地の有効利用及び地下の利用なども検討し、環境への負荷を最小限にとどめるよう努力する。